サイバー攻撃の手法は年々高度化し、私たちの生活やビジネスに大きな影響を及ぼしています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2025」では、新たなリスクが浮上し、これまで以上に対策の重要性が高まっています。
本記事では、2025年版の脅威の概要や新たにランクインしたサイバー攻撃、背景にある社会的・技術的要因を詳しく解説し、個人や企業が取るべき対策について考察します。
「情報セキュリティ10大脅威」は、IPAが毎年発表するサイバー攻撃の動向をまとめたランキングです。2025年版では、昨年と比較してどのような変化があったのでしょうか。
新たにランクインした脅威とともに解説します。
IPAが発表する「情報セキュリティ10大脅威」は、サイバー攻撃の脅威度や影響範囲を評価し、ランキング形式でまとめたものです。企業や政府機関、個人にとっての重大なリスクを明確にし、対策を促す目的で毎年公開されています。2025年版では、特に国家間の対立や社会インフラへの攻撃が注目されており、技術の進化とともに脅威の形態が変化していることが分かります。
2024年版と比較すると、ランサムウェア攻撃や内部不正、サプライチェーン攻撃などは依然として大きな脅威として位置付けられています。一方で、「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」や「DDoS攻撃」の復活など、新たな要素が加わりました。特に、2024年には政府機関や社会インフラ企業などに対するサイバー攻撃が増加し、国際情勢の影響を受けた攻撃も目立ちました。
2025年版で新たにランクインした脅威として、「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」(7位)と「分散型サービス妨害攻撃(DDoS攻撃)」(8位)が挙げられます。地政学的リスクに起因するサイバー攻撃は、国家間の対立を背景に政府機関や重要インフラを狙う攻撃が増加したため、新たに選出されました。
DDoS攻撃は、過去数年間の減少傾向から一転し、2024年に大規模な攻撃が相次いだことを受け、5年ぶりにランキングに復帰しています。
2025年版の「情報セキュリティ10大脅威」で新たにランクインした「地政学的リスクに起因するサイバー攻撃」と「分散型サービス妨害攻撃(DDoS攻撃)」は、国際情勢の変化や技術の進化と密接に関連しています。
それぞれの脅威の詳細と背景にある要因について掘り下げます。
2024年は、各国政府の関与が疑われるサイバー攻撃が急増し、政府機関や企業に深刻な影響を与えたのも特徴といえるでしょう。特に、電力や通信、金融といった重要インフラが標的となり、システムの停止や情報漏えいといった被害が拡大しました。また、サイバー攻撃を利用した偽情報の拡散も活発化しており、社会の混乱を引き起こす事例が増えています。
こうした背景には、各国の政治的な対立や国際情勢の緊迫化があり、サイバー空間が新たな戦場となりつつあります。今後もこのような攻撃が続くと予想されるため、各国や企業は対策を強化する必要があるでしょう。
DDoS攻撃は、近年それほど注目されていませんでしたが、2024年には大規模な攻撃が相次ぎ、再び大きな脅威として浮上しました。特に、ボットネットを利用したDDoS攻撃が増加し、企業や政府機関のオンラインサービスが長時間にわたって停止する被害が発生しました。中でも金融機関やECサイトが狙われるケースが多く、取引の中断や顧客への影響が深刻化しています。攻撃手法の進化により、DDoS対策の強化がこれまで以上に求められる状況となっています。
これらの脅威が増加している背景には、社会的・技術的な変化が密接に関係しているといえます。
まず、国際的な政治・経済の不安定化がサイバー攻撃の増加に大きな影響を与えています。国家間の対立が激化し、経済制裁や外交的な摩擦が高まる中で、サイバー空間が新たな戦場となりつつあります。一部の国では、政府機関や企業への攻撃を国家戦略の一環として活用し、機密情報の窃取やインフラの混乱を引き起こす手段としてサイバー攻撃が行われています。
また、AI技術の進化も攻撃手法を高度化させている一因といえるでしょう。生成AIや機械学習技術の急速な発展により、攻撃者はこれまで以上に洗練された手口を用いることが可能になりました。例えば、AIを活用して本物と見分けがつかないフィッシングメールを自動生成したり、ターゲットに応じてカスタマイズされたマルウェアを作成したりすることが容易になっています。リアルタイムでセキュリティ対策を回避する高度な攻撃も増えており、これまでの対策だけでは防ぎきれないケースが増加しています。
サイバー攻撃のリスクが高まる中、個人や企業はどのような対策を講じるべきなのでしょうか。ここでは、パスワード管理や多要素認証などの基本的な対策から、企業向けのセキュリティ強化策、さらに最新のセキュリティツールの活用方法まで、具体的な防御策を紹介します。
サイバー攻撃のリスクを軽減するためには、個人レベルでも適切なセキュリティ対策を講じることが重要です。まず、アカウントの乗っ取りを防ぐために、長く複雑なパスワードを設定し、使い回しを避けるようにしましょう。パスワードの管理が難しい場合は、信頼できるパスワード管理ツールを活用し、安全に保管するのが効果的です。
また、近年増加しているフィッシング詐欺への対策として、不審なメールやリンクを開かないことも重要です。攻撃者は正規の企業や銀行を装ったメールを送信し、リンクをクリックさせて個人情報を盗もうとします。メールの差出人やURLを慎重に確認し、少しでも不審に思った場合は開かずに削除することが、安全なインターネット利用につながります。
企業にとって、サイバー攻撃は業務の継続性や顧客の信頼に直結する問題です。そのため、より高度なセキュリティ対策を導入し、組織全体でリスク管理を徹底する必要があるでしょう。
まず、企業のネットワークをより安全に保つために、ゼロトラストセキュリティモデルの導入が求められます。ゼロトラストは「誰も信用しない」ことを前提に、ユーザーのアクセス権限を厳格に管理し、不正アクセスのリスクを最小限に抑える考え方です。これにより、内部ネットワークに侵入された場合でも、被害の拡大を防ぐことができます。
また、サイバー攻撃は人的ミスを突いたものが多いため、従業員のリテラシーを高めるためにも、セキュリティ教育の強化は非常に重要です。例えば、フィッシングメールの見分け方や、安全なパスワードの設定方法を定期的に研修することで、従業員が攻撃の標的になりにくくなります。特に、リモートワークの普及により、自宅やカフェなどで業務を行う機会が増えているため、安全な通信環境の確保についても啓発することが必要です。
万が一攻撃を受けた場合に迅速に対応できるよう、インシデント対応計画を策定しておくことも欠かせません。セキュリティインシデントが発生した際に、どの部署がどのように対応するのかを事前に定めておくことで、被害の拡大を防ぎ、早期復旧が可能になります。
サイバー攻撃の手口が高度化する中で、特に企業では適切なセキュリティツールを導入し、リスクを最小限に抑えることも重要です。
端末への攻撃を早期に検知し、迅速に対応するためにEDR(Endpoint Detection and Response)の導入が推奨されます。EDRは、パソコンやサーバーなどのエンドポイントをリアルタイムで監視し、異常な挙動を検知すると即座に対応を行うツールです。従来のアンチウイルスソフトでは検出が難しかった高度な攻撃にも対応できるため、多くの企業で導入が進んでいます。
また、ウェブサイトを標的とした攻撃から守るためには、WAF(Web Application Firewall)の導入が効果的です。WAFは、ウェブアプリケーションを狙った攻撃を自動で検知・遮断する仕組みを持っており、特にDDoS攻撃やSQLインジェクションなどの脅威に対する防御策として有効です。オンラインサービスを提供する企業にとって、顧客のデータを保護するためにも不可欠なツールといえます。
このように、サイバー攻撃のリスクを低減するためには、適切な対策を実施し、最新のセキュリティツールを活用することが重要です。特に、攻撃者の手口が日々進化しているため、定期的な見直しと継続的なセキュリティ対策の強化が求められます。
「情報セキュリティ10大脅威2025」では、従来のサイバー攻撃に加えて、新たなリスクを確認することができます。特に、地政学的リスクに起因する攻撃やDDoS攻撃の増加は、企業にとって大きな課題といえます。
今後もサイバー脅威は進化を続けるため、最新の情報を把握し、適切な対策を実施することが重要となります。