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  • 2025.12.09. なぜ今、セキュリティは経営課題なのか ―取締役・経営層が押さえるべき5つのポイント


    デジタル化の進展により、企業活動はあらゆる場面でITに依存するようになりました。その一方で、サイバー攻撃や情報漏えいといったリスクも急速に高まっています。これらの脅威はもはや技術部門だけの問題ではなく、企業価値やブランド信頼を左右する経営課題として、取締役や経営層が主体的に取り組むべき領域となっています。

    本記事では、経営層が理解しておくべきセキュリティの要点と、実践へ向けた具体的なステップを解説します。

    1. なぜ今、情報セキュリティが経営課題として問われるのか

    かつてはシステム障害やサイバー攻撃はITの問題として扱われていました。
    しかし今日では、情報セキュリティの脅威が企業の存続や社会的信用を脅かす事例が相次いでおり、経営層の判断が問われる時代へと変化しています。

    1-1. サイバー攻撃はもはやIT部門だけの問題ではない
    サイバー攻撃の手口は年々巧妙化し、経営判断や人の心理を狙う標的型攻撃やサプライチェーン攻撃などが急増しています。攻撃者の目的は単なるシステム破壊にとどまらず、企業の財務情報、顧客データ、技術情報など、経営の中枢に関わる情報資産の奪取にあります。そのため、被害が発生した場合、IT部門の範囲を超え、経営層による迅速な意思決定や説明責任が求められます。

    セキュリティをコストと捉える時代はすでに終わり、経営リスクを最小化するための投資として戦略的に位置づける必要があります。

    1-2. 情報漏えい・システム停止がもたらす経営インパクト

    情報漏えいやサービス停止は、単なる技術トラブルではなく、企業の評判・収益・株価に直結する重大な経営リスクです。特に顧客情報の流出は、信頼の喪失や取引停止、損害賠償の発生など、企業の信用基盤を揺るがしかねません。また、業務停止によるサプライチェーン全体への影響や、社会的非難によるブランド毀損は、長期的な企業価値の低下を招く恐れもあります。

    経営層は、サイバー攻撃を事業継続の脅威として認識し、平時からの備えを経営計画の中に組み込むことが不可欠といえます。

    1-3. ガバナンス・リスクマネジメントの中核としての位置づけ

    近年では、情報セキュリティは企業経営の健全性を支える要素として、ガバナンス(企業統治)やリスクマネジメントの中心的な位置を占めるようになっています。取締役会がセキュリティ方針を監督し、経営層がその実効性を確認することが、企業全体の信頼性を高める鍵となります。

    金融庁や経済産業省の指針でも、経営層がサイバーリスクを把握し、説明責任を果たすことが明確に求められるようになりました。セキュリティを経営の一部として統合的に管理することこそが、ガバナンス強化と企業の持続的成長につながります。

    2. 経営層が押さえるべき5つのセキュリティポイント

    経営層が情報セキュリティを戦略的に捉えるためには、単に対策を実施するだけでは不十分です。
    以下の5つのポイントを押さえることで、リスクを最小化しつつ、企業価値の維持・向上を図ることができます。

    2-1. 経営戦略と整合したセキュリティ方針の策定

    セキュリティ対策は、経営戦略と一体となって機能してこそ意味があります。例えば、新規事業のデジタル化や海外展開を進める際には、それに伴うデータ管理・法規制対応を考慮したセキュリティ方針が求められます。
    経営層自らが方針の策定に関与し、企業理念や経営目標と整合したルールを整備することが重要です。

    2-2. サプライチェーン全体でのリスク管理

    自社がどれほど強固な対策を講じていても、取引先や委託先が攻撃を受ければ、結果的に被害を受ける可能性があります。このため、企業単体ではなく、サプライチェーン全体を俯瞰したリスク管理が必要です。
    契約書でのセキュリティ要件明示や、定期的な監査・評価を通じて、外部委託先との連携体制を強化しなければなりません。

    2-3. インシデント対応体制の整備と訓練

    万が一、情報漏えいや攻撃被害が発生した場合、初動対応の遅れが被害を拡大させます。経営層は、IT部門や法務部門、広報部門などを横断したインシデント対応チームを組織し、指揮命令系統を明確化する必要があります。
    このような組織は一般にCSIRT(Computer Security Incident Response Team)と呼ばれ、サイバー攻撃や情報漏えいといったセキュリティインシデントに、迅速かつ的確に対応するための中核的な役割を担います。
    また、実際の攻撃を想定した訓練を定期的に実施することで、危機時の判断力と対応力を磨くことができます。

    2-4. 社員教育とセキュリティ文化の醸成

    人の不注意による情報漏えいは、依然として最も多い原因の一つです。経営層は、単なるマニュアル遵守を促すのではなく、全社員が自分ごととしてセキュリティを意識できる文化を醸成することが重要です。
    定期的な研修や啓発活動を通じて、組織全体でセキュリティリテラシーを高めていく取り組みが求められます。

    2-5. 経営指標としてのセキュリティ評価

    セキュリティを経営指標の一つとして定量的に評価することで、継続的な改善が可能になります。例えば、リスク評価スコアや監査結果、訓練実施率などをKPIとして設定し、取締役会で定期的に報告する仕組みを整えることが有効です。
    セキュリティを可視化することで、経営層自らが課題を把握し、迅速な意思決定につなげることができます。


    3. 情報セキュリティ強化への5つのステップ

    経営層が主導して情報セキュリティを推進するには、単なるIT施策ではなく、組織全体のマネジメントとしての実践が求められます。
    ここでは、経営層が実際に取り組むべき、情報セキュリティ強化への5つのステップを紹介します。

    3-1. 経営トップ主導による体制づくり

    セキュリティ推進の要は、経営トップのリーダーシップです。経営層が明確なメッセージを発信し、組織全体の意識を統一することで、対策が形骸化するのを防ぎます。
    取締役会レベルでセキュリティを議題化し、経営課題として継続的に取り上げることが第一歩となります。

    3-2. 現状把握とリスクアセスメントの実施

    次に、自社の現状を把握し、どの領域に脆弱性があるのかを明確にします。リスクアセスメントを実施し、情報資産の重要度を分類したうえで、想定される脅威や影響度を定量的に評価しましょう。これにより、限られたリソースを効果的に配分することが可能となります。

    3-3. 方針・ルール・教育の整備と運用

    策定したセキュリティ方針に基づき、社内規程やルールを整備し、実際の運用に落とし込みます。同時に、社員教育を体系的に実施し、個人レベルでの意識定着を図ることが重要です。運用段階では、内部監査やチェックリストを活用して継続的な改善を促進します。

    3-4. 外部専門家との連携・第三者評価の導入

    自社だけで全てをカバーするのは難しいため、外部専門家の支援を受けることも有効です。第三者機関による監査や認証取得は、対外的な信頼の確保にもつながります。客観的な評価を通じて、組織のセキュリティレベルを継続的に高めていくことができます。

    3-5. PDCAによる継続的な改善

    セキュリティ対策は一度整えれば終わりではなく、環境変化に応じた見直しが必要です。定期的なモニタリングと改善(PDCAサイクル)を実践し、最新のリスクに対応できる柔軟な体制を維持することが求められます。
    継続的な取り組みこそが、企業の信頼と競争力を支える基盤となります。


    まとめ

    経営層が主導してセキュリティ体制を構築し、継続的な改善を重ねることで、企業は不測の事態にも強い組織へと成長できます。サイバーリスクを正しく認識し、リーダーシップをもって全社的な意識改革を進めることが、これからの時代の経営の要諦といえるでしょう。

    情報セキュリティを経営課題として捉えることは、単なる防御策ではなく、社会的信頼を獲得し、持続的成長を実現するための前向きな経営判断なのです。