企業が抱える深刻な脅威の一つが、内部不正による情報漏洩です。
外部からの不正アクセスだけでなく、社内の従業員による意図的な情報持ち出しや過失によるデータ漏洩など、内部不正のリスクを過小評価してはいけません。
この記事では、内部不正が情報漏洩の隠れたリスクとなりうる背景や対策について解説します。
内部不正の脅威を正しく理解し、組織を守る対策を講じることが重要です。
情報漏洩のリスクは、外部の脅威だけでなく、企業内部にも存在します。
内部不正は、故意によるものと過失によるものに大別できますが、いずれも深刻なダメージをもたらす可能性があり、適切な対策が必須となります。
内部不正が発生する背景には、さまざまな動機が存在します。
第一に考えられるのが金銭的動機でしょう。
不正にデータにアクセスし、入手した機密情報を売却することで、金銭的利益を得ようとする行為です。機密情報は、ダークウェブでの売買や不正な名簿業者などと取引することにより、多くの対価となることが考えられます。
また、個人的な恨みも内部不正の動機となりえます。
上司や会社に対する不満や恨みから、機密情報を持ち出して流出させることで、報復したり嫌がらせしたりすることがあるかもしれません。
さらに、競合企業へ転職する際に、技術情報や営業情報、顧客データなどの機密情報を持ち出し、新しい職場で利用しようとする動機も考えられます。
一度機密情報が漏洩すると、企業は、経済的な損失、企業イメージの低下、コンプライアンス違反といった深刻なダメージを被ることになります。
• 経済的な損失
情報漏洩により、重要な機密情報や顧客情報を悪用されることで、企業は経済的な損失を被るでしょう。
復旧費用、補償金、訴訟費用などの多大なコストが発生することで、売上や利益にも大きな影響を与える可能性があります。技術情報の漏洩であれば、競合他社に先行されるリスクもあり、これも企業収益に大きな影響を及ぼします。
•企業イメージの低下
企業のブランドイメージが低下し、お客様からの信頼を失うおそれもあります。
お客様だけでなく、ビジネスパートナーや株主などの利害関係者からの信頼も低下する可能性があるでしょう。
大規模な情報漏洩が発覚した場合、マスコミでも大きく取り上げられ、企業の評判が傷つくかもしれません。
• コンプライアンス違反
個人情報を含む機密情報が漏洩した場合は、個人情報保護法違反に問われるリスクがあります。法的な罰則や被害者からの損害賠償請求を受ける可能性もあります。漏洩した個人情報が不正利用され、なりすまし犯罪などの二次被害が発生すれば、より深刻なダメージとなります。
このように、内部不正による情報漏洩は、企業に多大な影響を及ぼす重大なリスクであり、十分な対策が求められます。
内部不正による情報漏洩のリスクが高まっている背景には、複数の要因が考えられます。
リモートワークの普及により、データアクセスの管理が難しくなっていること、従業員の情報セキュリティ意識の低さ、そして企業のコンプライアンス体制の不備などが、内部不正リスクを高めています。
環境の変化に伴い、これまで以上に内部不正対策を強化する必要があるでしょう。
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、リモートワークが一気に広まりました。
在宅やリモートでの勤務者が増えたことで、社内のセキュリティ管理が従来より難しくなり、不正アクセスのリスクが高まっています。
さらに、紙の書類に代わってデータでの情報共有が一般化し、データの可搬性も格段に高まりました。
この結果、内部の従業員が機密データを持ち出しやすい環境になっているのが現状です。
また、通常の社内ネットワークとは異なる環境からのアクセスが増えたため、従業員の不審な行動を検知しにくくなっていることもあるでしょう。
リモートワーク環境の普及は、内部不正を見逃しやすくなる要因の一つとなっています。
内部不正のリスクが高まっているもう一つの要因として、従業員の情報セキュリティに対する意識の低さが挙げられます。ソーシャルエンジニアリングへの理解が不十分な従業員も多く、無意識のうちにフィッシング詐欺などの犯罪に加担してしまう危険性があります。
また、機密データをUSBメモリなどのリムーバブルメディアにコピーしたり、許可なくクラウドストレージに保存したりするケースも後を絶ちません。作業の効率化や利便性を優先するあまり、セキュリティ上のリスクを看過する傾向にあります。
サイバー攻撃に対する危機意識の欠如から、情報漏洩につながる可能性があるのです。
企業における情報セキュリティ対策が不十分であれば、内部不正のリスクは高まります。
ただ、情報セキュリティポリシー整備を進めている企業は、まだ少ないのが現状です。
ポリシーが策定されていても、従業員への周知徹底が不十分な場合も多くありますし、ポリシー内容に不備があれば、有効な対策を講じるのは難しいでしょう。
さらに、コンプライアンスやガバナンスの体制が、不十分な企業も少なくありません。
実効性のある管理監督が行われていないため、内部不正を見逃してしまうリスクがあるのです。
このように、制度面での問題点が内部不正のリスクを高めています。
組織として適切な情報管理体制を整備し、従業員の不正行為を予防・検知する必要があります。
内部不正による情報漏洩は、企業に甚大な被害をもたらす重大なリスクとなります。
このリスクを軽減するには、技術的な対策と人的な対策を組み合わせた総合的なアプローチが不可欠です。
さらに経営層のリーダーシップと継続的な取り組みも欠かせません。
内部不正を防ぐための、技術的な対策を確認しましょう。
まず、アクセス権限の適切な管理が重要となります。全従業員に一律に権限を付与するのではなく、必要最小限の権限を個別に設定する必要があります。とくに機密性の高い情報へのアクセスは、厳重にコントロールしなければなりません。
また、重要なデータは暗号化して保護する必要があります。万が一、情報が漏洩しても、暗号化されていれば被害を最小限に抑えられます。ただ、暗号化だけでは完全な対策とはなりません。社内の従業員であれば、暗号化されたデータも解読可能だからです。
そのため、情報システムのログを確実に記録し、定期的に確認する必要があります。不審な操作を検知し、内部不正の防止につなげることができます。
さらに、不正アクセス検知システムなどの、高度なセキュリティソリューションの導入も有効となるでしょう。
一方で、人的な側面での対策も不可欠です。
まず、従業員一人ひとりの情報セキュリティ意識を高める必要があります。定期的な教育を通じて、内部不正のリスクと対策を徹底して周知しましょう。
加えて、ソーシャルエンジニアリング対策なども含めた、実践的な研修を行うことが重要です。
また、コンプライアンス意識の向上にも取り組む必要があります。
企業倫理やセキュリティポリシーの遵守を促し、違反した際の処分についても明確に示すべきです。
さらに、内部通報制度を設けることで、不正の早期発見につなげることができます。
匿名で通報できる環境を整備し、不正を見逃さないようにする必要があります。
内部不正対策において最も重要なのは、経営層の強力なリーダーシップとコミットメントです。
経営トップ自らが情報セキュリティの重要性を常に従業員に示し、セキュリティ対策を全社に推進する必要があります。ロールモデルとして先頭に立ち、意識改革を促すことが不可欠です。
さらに、組織全体を包括する情報セキュリティポリシーを、明確に定める必要があります。人的・技術的な対策を具体化するための指針となるからです。加えて、第三者によるセキュリティ監査を定期的に実施するべきです。
外部の専門家による客観的なチェックを受け、内部不正のリスクを洗い出し、対策の改善を継続的に行っていく必要があるでしょう。
このように、内部不正を未然に防ぐためには、技術と人、そして経営層のリーダーシップによる総合的なアプローチが欠かせません。すべてのステークホルダーが一丸となって取り組むことで、効果的な対策につなげることができます。
内部不正は看過できない重大な情報漏洩リスクです。
適切な技術的・人的対策を組み合わせ、さらに経営層の強力なコミットメントのもと、包括的な対策を講じることが重要となります。
一企業だけでなく、取引先や顧客、最終的には社会全体に重大な影響を及ぼしかねない深刻な問題であり、常に最新の対策を施していく必要があるでしょう。