企業にとって情報は、事業の基盤であり競争力の源泉です。しかし、近年、サイバー攻撃や内部不正などによる情報漏洩リスクが高まっており、企業に大きな損害を与えることも増えています。
この記事では、機密情報漏洩を防止するためのDLP(Data Loss Prevention)について解説していきます。
情報漏洩とは、企業の機密情報が不正に外部に流出することをいいます。機密情報の漏洩が起こると、企業はさまざまなリスクにさらされることになります。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
顧客情報や技術情報といった機密情報の漏洩は、企業にとっての競争力低下を引き起こすでしょう。
これらの情報は、企業の競争優位性を維持するために不可欠なものであり、漏洩によって競合他社に先を越されたり、売上や利益を失ったりする可能性があります。
機密情報の漏洩は、顧客の信頼を大きく失うかもしれません。機密情報の中には、顧客のプライバシーや財務につながる重要な情報も多く含まれています。
この情報漏洩によって顧客の信頼を失うと、取引の停止や損害賠償の請求などにつながる恐れもあります。
個人情報や機密情報の漏洩は、知的財産権の侵害や個人情報保護法違反のような、法的責任を追及される可能性も考えられます。
このように機密情報漏洩は、重大なリスクとなります。こうしたリスクからビジネスを守るため、情報漏洩対策を徹底することが企業にとって今後ますます重要となるでしょう。
DLPとは、機密情報を識別し、不正な持ち出しや漏洩を防止するためのセキュリティツールです。
具体的な仕組みや導入のメリットを確認しておきましょう。
DLPは、データそのものの保護と管理を目的としています。従来の情報漏洩対策は、個々のユーザーのアクセスや操作履歴を監視する方式なのに対し、DLPは機密データ自体を対象に、不正なコピーや外部への送信を検知して防止します。
DLPには機密情報の特徴を分析し、特定データの移動やコピーを自動検知し、遮断する機能が備わっています。管理者が機密データの判断基準をシステムに設けることで、高精度な判別と対応を実現できるのが強みです。
従来のユーザー中心の監視では、正規アクセス権を持つ社内の人間による情報漏洩を防ぐことは困難とされていました。
また、異常を発見するために操作ログを常時監視することは、膨大なデータの記録と解析時間が必要となり、運用負荷とコストが高くなるというデメリットがありました。
DLPはデータ自体を監視対象とすることで、内部脅威にも対応可能です。機密性の高いデータだけに特定できるので、監視対象が絞られ、管理運用の負荷を大幅に下げられるのも特徴の一つです。
DLP がデータを監視する際、まず企業内に存在する大量の情報から機密性の高い特定データを抽出します。ユーザーのアクセスや操作そのものではなく、データ自体を直接監視するのがDLPの大きな特徴です。
データの識別には、キーワード検索方式に加え、フィンガープリントと呼ばれる技術などが使われています。
キーワード方式は、データ内の住所、電話番号、クレジットカード情報などの特定文字列を検索することで機密データを判別します。
以前からデータ検索や分析で一般的な技術ですが、企業内の膨大なデータすべてにこれを適用するのは実用的ではありません。該当するキーワードを、全て登録する作業コストが高くつくためです。
そこで登場したのがフィンガープリントと呼ばれる技術です。フィンガープリント方式は、データそのものが持つデジタル指紋に相当する固有の値を使って、データの同一性を高精度で判断できます。
指紋情報を事前に登録しておけば、仮にデータ内容が変更されても迅速かつ正確な判定が実現可能です。また人手によるキーワード登録が不要なため、運用効率の大幅な向上にもつながるでしょう。
DLPを導入することによる、具体的なメリットを以下で確認しましょう。
・機密情報の漏洩を防止できる
DLPは機密データのコピーや送信を検知し遮断するため、意図しない情報漏洩を事前に防ぐことができます。機密データが外部に流出するリスクを大幅に軽減することを可能とします。
・リアルタイムでの異常検知が可能
データに対する不適切なアクセスを発見した時点で、DLPが即座に検知しアラートを送信します。異常なデータ操作の兆候を見逃さず、初期対応に活用できます。
・ヒューマンエラーの機密情報漏洩を防止
ヒューマンエラーとは、人為的なミスや失敗のこと。誤送信や伝達ミス、勘違いといった内部の人間の不注意による情報漏洩を事前に防止することができます。
意図しないリスクからデータを保護することができるでしょう。
・セキュリティ運用コストの大幅削減
従来手法に比べて運用効率が優れているため、運用に要するリソースとコストを大きく削減できます。運用者の負荷が下がり、本来の業務に注力できるようになります。
このように、DLPを活用することで、機密データが外部に流出するリスクを大幅に軽減すると同時に、コスト削減も実現することができるでしょう。
DLPを円滑に導入し、最大限の効果を引き出すには、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。
自社の機密情報とは、外部に漏洩した場合に、企業に大きな損害を与える可能性がある情報です。
具体的には、以下のような情報が挙げられます。
・顧客情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレス、クレジットカード情報など)
・財務情報(売上高、利益、従業員数など)
・技術情報(製品情報、製造方法、特許など)
・個人情報(社員情報、取引先情報など)
これらの機密情報をできる限り網羅的に洗い出し、その重要度や流出リスクに応じて分類します。
機密度の高い情報から順に、DLPの監視対象として優先順位をつけていきます。
これらのデータの保存場所として、共有サーバのフォルダ・メール・クラウドストレージ・個人PC等が考えられます。流出経路もメール添付やUSBメモリでの持ち出し等、多岐に渡るため、漏れなく把握することが不可欠です。
続いて、自社に適切なDLPソリューションを検討します。複数製品の機能比較やコストパフォーマンス評価を行い、自社のニーズと照らし合わせ最適なものを選定します。
DLPには、以下のような具体的な機能があります。
・印刷制限機能
・デバイス制御機能
・メールセキュリティ機能
・エンドポイント監視機能
・Webフィルタリング機能
自社に必要な機能を持つDLP製品を、検証・評価した上で選定を行いましょう。選定後は迅速に導入し、段階的に監視対象となる機密情報の範囲を広げていきます。
DLPを導入するだけでは、十分な効果は期待できません。DLPを社内に広く展開し、恒常的に運用していくための組織体制を整えていく必要があります。
専任の運用チームを構成し、マニュアルや手順書を作成して、業務プロセスを明確化しましょう。
運用ルールやインシデント対応手順のマニュアルを整備するとともに、全社員向けに機密情報管理やセキュリティ意識向上のための研修を実施します。DLPの効果を最大限に発揮するには、組織全体での理解と協力が欠かせないでしょう。
情報漏洩は企業にとって大きなリスクですが、DLPを活用して、これを最小化することができます。
DLPは、重要な情報の流出を防止し、企業の競争力を維持し、顧客の信頼を保つための強力なツールです。
そのためには、全社員が運用体制を理解し、一丸となって対応することが、DLP導入の成功に不可欠となります。情報漏洩に対する企業の意識が高まる中、DLPは今後ますます重要な役割を果たすことでしょう。