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  • 2025.08.19. USBメモリが招くセキュリティインシデント:物理デバイスから始まる情報漏洩の実態



     

    USBメモリが招くセキュリティインシデント
    :物理デバイスから始まる情報漏洩の実態

    USBメモリは、軽量かつ大容量という利便性から、今なお多くの現場で利用されています。しかし、その小ささゆえに紛失や盗難のリスクが高く、場合によっては一瞬で甚大な情報漏洩を引き起こします。近年では、単なる紛失だけでなく、悪意を持って細工されたUSBデバイスによるサイバー攻撃も報告されており、セキュリティ上の脅威は深刻さを増しています。


    本記事では、USBメモリに潜む意外なリスクから国内外でのインシデントの実態、そして情報漏洩を防ぐ対策について解説します。

     

      

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      1. USBメモリに潜む意外なリスクとは?

      USBメモリは、見た目こそシンプルで無害に思えるデバイスですが、その内部には情報漏洩やサイバー攻撃を引き起こす潜在的なリスクが数多く潜んでいます。ここでは、技術面・運用面・心理面という3つの視点から、その危険性を整理します。

       

       

      1-1. 技術的なリスク

      USBメモリの多くは、購入時点では暗号化機能を備えていません。そのため、紛失や盗難にあった場合、差し込むだけで保存データを閲覧できてしまいます。また、古い規格や長期間更新されていないファームウェアのまま使用されることも少なくなく、既知の脆弱性が放置されるケースが目立ちます。


      過去には、OSの自動再生機能を悪用し、USBを挿入した瞬間にマルウェアを実行する攻撃が実際に発生しており、社内ネットワーク全体へ感染が広がった事例もあります。こうした攻撃は、一度でも侵入を許せばバックドア設置やデータ改ざんなど大規模な被害に発展する可能性があるため、特に古いUSB機器の利用継続は大きなリスクとなります。

       

       

      1-2. 運用上のリスク

      組織内でUSB利用ルールが整備されていない、あるいは形骸化している場合、情報漏洩の可能性は格段に高まります。例えば、業務でクラウド利用が許可されていないため、代わりにUSBメモリでデータを持ち出すといった行為は、意図せずセキュリティポリシーを無効化することになります。また、私物USBメモリの業務利用や、暗号化義務のない貸与品の利用も、事故の温床となるでしょう。

       

       

      1-3. 心理的なリスク

      USBメモリは手に収まる小さなデバイスであるため、「紛失しない」「盗まれない」という過信が生まれやすい傾向があります。しかし、実際には鞄やポケットからの落下、外出先での置き忘れといった事例は頻発しています。さらに、管理者や経験豊富な社員ほど、これまで問題はなかったという思い込みから、セキュリティ意識が低下することも少なくありません。こうした心理的油断こそが、深刻な事故を引き起こす引き金になります。

       

       

       

      2. 国内外で報告されるUSB関連インシデントの実態

      USBメモリを巡るインシデントは、国内外を問わず、企業や自治体、さらには政府機関にまで広がっています。


      ここでは、代表的なインシデントとその傾向を整理しましょう。

       

       

      2-1. 国内企業でのUSB紛失・盗難事例とその特徴

      日本国内では、USBメモリの紛失や盗難による情報漏洩が毎年のように報告されています。例えば、


      ・外部委託先の作業員が持ち出したUSBメモリを紛失した

      ・業務終了後にUSBメモリを自宅に持ち帰るつもりが、帰宅途中に鞄ごと置き忘れた

      ・社内で利用中に机や会議室に放置し、そのまま所在不明になった

      といった事例です。


      特に、顧客情報や契約書データなどの機密情報をUSBメモリに入れたまま紛失した、というケースが多いようです。USBメモリは小型で存在感が薄いため、紛失後に気付くまで時間がかかる傾向があります。

       

       

      2-2. 海外でのBadUSB攻撃の被害

      海外では、物理的なデータ漏洩にとどまらず、USBそのものが攻撃ツールとして悪用される事例が多く報告されています。代表例が「BadUSB」と呼ばれる攻撃で、USBのファームウェアを改ざんし、差し込まれたPCに対して、キーボード入力を偽装したり、マルウェア感染を実行したりするものです。さらに、一見すると無害なノベルティ用USBメモリや記念品に見せかけ、社内ネットワーク侵入のきっかけとする手口もあります。これは、受け取った人の好奇心や善意を突く、極めて巧妙な攻撃です。


      人間の好奇心や油断を突くこれらの攻撃は、技術的な防御だけでなく利用者教育の必要性を強く示しているといえます。


      参考:日経クロステック 郵送された「USBメモリ」に恐怖の罠、PCに挿すだけでランサムウエアに感染

       

       

      2-3. 事故発覚が遅れる理由

      USBメモリ関連の事故は、発覚までに時間がかかることが少なくありません。理由としては、


      ・紛失しても業務に即支障が出ない場合がある

      ・使用者が所在不明に気づいても後で見つかるだろうとおおごとにしない

      ・システム上でUSBメモリの利用履歴を追跡できない


      などが挙げられます。この遅延が致命的なのは、対応の初動が遅れることで被害範囲が拡大し、取引先や顧客への説明や補償が複雑化する点です。


      海外では、USBメモリを経由して機密文書がダークウェブに流通した事例や、サイバー攻撃の踏み台として利用された例もあり、物理デバイスが持つ潜在的リスクの大きさを物語っています。

       

       

       

      3. USBメモリによる情報漏洩を防ぐには?

      USBメモリを完全に排除するのは現実的ではありません。特に、現場作業や外部機器とのデータやり取りが避けられない業務では、一定の利用を認めざるを得ない場面もあるでしょう。重要なのは、「使わせない」のではなく、「安全に使わせる」ための環境とルールづくりです。


      ここでは、実践的な3つの対策を解説します。

       

       

      3-1. 暗号化USBメモリとパスワード管理の徹底

      まず、物理的にUSBメモリを紛失したとしても、中のデータを第三者が閲覧できないようにすることが第一歩です。暗号化機能付きのUSBメモリを標準支給し、利用者が任意の非暗号化USBメモリを持ち込むことを禁止しましょう。暗号化方式はAES 256ビットなどの強度が高いものを採用し、パスワードは使い回しを避け、長い文字列で強度の高いパスワードを設定するようにします。また、利用者が暗号化設定の解除や初期化をできない仕様にすることも有効です。

       

       

      3-2. 利用申請・承認制度と持ち出し記録の運用

      USBメモリの利用は、必要なときに必要な人だけが使えるよう、限定するべきです。そのため、使用時には事前申請と管理者承認を必須とし、利用目的や持ち出し期間を明記するようにします。また、持ち出し記録をシステム上で管理し、返却や消去の確認もルール化します。特に外部委託先や派遣社員に貸与する場合は、契約書でUSBメモリの利用条件や返却義務を明確にし、違反時の罰則も規定しておく必要があります。

       

       

      3-3. IT制御によるUSBポート無効化・アクセス制限

      組織のPCに対して、不要なUSBポートを物理的またはソフトウェア的に無効化することも有効です。業務でどうしてもUSBメモリを使う場合も、特定のデバイスIDのみ許可するホワイトリスト方式を導入すれば、私物USBメモリの利用を防げます。ただし、こうした制御には導入・運用コストがかかり、現場での一時的な例外対応が必要になる場合もあるため、事前に運用フローを整備しておくことが重要です。完全遮断と限定利用を組み合わせ、現場の利便性を損なわずに安全性を確保する、ハイブリッド運用も有効な手段でしょう。


      加えて、DLP(Data Loss Prevention)機能を活用し、利用可能なファイル形式やコピー容量を制限すれば、仮にUSB利用が発生してもデータ漏洩リスクを最小限に抑えることができます。

       

       

       

      まとめ

      USBメモリは手軽で便利な反面、私物のものを業務利用したり運用ルールの不備があったりと、深刻な情報漏洩を招くリスクを抱えています。国内外の事例が示すように、紛失・盗難・悪意ある改ざんは、企業の信頼や経済的損失に直結します。


      有効な対策は、暗号化の徹底、利用ルールの明確化、そしてITによる技術的制御の三本柱です。


      「便利だから使う」から「安全に使う」への発想転換が、インシデント防止の鍵となります。

      日常業務に潜むリスクを見過ごさず、組織全体でセキュリティ文化を根付かせることが重要です。